電子帳簿保存法への対応|義務の範囲と、受発注・請求システムに持たせる保存要件
2026.09.22
電子帳簿保存法で必ず対応しなければならないのは、3つある区分のうち「電子取引データ保存」の1つだけです。メールに添付されたPDFの請求書、Web受発注の画面からダウンロードした注文書、電子契約で締結した契約書のように、データでやり取りした取引情報は、データのまま保存する必要があります。
この記事は、義務の範囲を確かめたうえで、受発注・請求・経費精算・電子契約といった発生源ごとに「どのデータを、どこに、どんな項目で検索できる形で保存するか」を決めるためのものです。会計ソフトの製品比較ではなく、自社のシステムに何を持たせるかという設計の視点で整理します。
先に要点を5つ挙げます。
- 1義務なのは電子取引データ保存だけで、電子帳簿等保存とスキャナ保存は希望する事業者が行う制度です。
- 2保存要件は「真実性の確保」と「可視性の確保」の2本立てで、タイムスタンプは必須ではありません。
- 3検索機能は3段階に分かれます。税務調査時の「ダウンロードの求め」に応じられれば範囲指定と組合せ検索は要件から外れ、基準期間の売上高が5,000万円以下であるなどの条件を満たせば、検索機能の確保そのものが不要になります。
- 4猶予措置はありますが、所轄税務署長が相当の理由があると認めることと、税務調査時の求めに応じられることが条件です。
- 5実務でいちばん効くのは、データ種別ごとに正本を置く場所を1か所に決めることです。
電子帳簿保存法とは?3つの区分は何が違うのか#
電子帳簿保存法は、税法上保存が必要な帳簿や書類を電子データで保存するための制度をまとめた法律で、内容は3つの区分に分かれています。このうち対応が必要なのは電子取引データ保存だけで、残りの2つは希望する事業者が選んで行う制度です。
区分ごとの位置づけを、次の図に整理しました。
義務なのは「電子取引データ保存」だけ#
国税庁のパンフレットは、電子帳簿等保存とスキャナ保存に「希望者のみ」、電子取引データ保存に「法人・個人事業者は対応が必要」と注記しています(電子帳簿等保存制度を活用して、デジタル化をさらに進めてみませんか?(令和8年6月)|国税庁)。
ここを取り違えると、対応の範囲を無駄に広げてしまいます。紙で受け取った請求書をすべてスキャンしてデータ化する必要はありませんし、会計ソフトの帳簿を電子で保存していなくても違反にはなりません。まず手を付けるべきは、すでにデータで受け取っている・データで送っているものの保存です。
「電子取引」とは何を指すのか#
電子取引とは、紙でやり取りしていたなら保存が必要になる書類に相当する情報を、データで受け取ったり送ったりする取引のことです。先ほどのパンフレットは、注文書・契約書・送り状・領収書・見積書・請求書などに相当する電子データを、対象の例として挙げています。受け取ったものだけでなく、自社が送ったものも対象です。現場の感覚に置き換えると、次のようなものはすべて電子取引データです。
- 取引先からメールに添付で届いた請求書・見積書のPDF
- 自社が取引先へメールで送った注文書・支払通知書のPDF
- Web受発注システムや取引先のポータルからダウンロードした注文データ
- 電子契約サービスで締結した契約書
- ECサイト(インターネット通販)やクレジットカードの明細画面から取得した領収書データ
「紙にも出しているから大丈夫」という整理は通りません。データで受け取ったものはデータとして保存するのが原則で、紙に出力した書面だけを残す運用が認められるのは、後述する猶予措置の条件を満たす場合に限られます。
なお、保存しておく期間そのものは電子帳簿保存法ではなく法人税法などが定めています。法人の場合、帳簿と取引に関して作成または受領した書類は、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間の保存が必要です。青色申告書を提出した事業年度で欠損金額が生じた事業年度と、青色申告書を提出しなかった事業年度で災害損失金額が生じた事業年度については、10年間になります(No.5930 帳簿書類等の保存期間|国税庁)。システムの保存期間を設定するときは、この年数が下限になります。
どこまでが義務なのか?規模・事情に応じた緩和と猶予措置#
義務の対象は法人・個人事業者を問わず広いのですが、要件のほうには規模や事情に応じた緩和が用意されています。検索要件と猶予措置の現行のルールは令和5年度税制改正で定められ、令和6年1月1日以後にやり取りする電子取引データに適用されます(電子帳簿保存法の内容が改正されました(令和5年4月)|国税庁)。ここを読み違えると、必要のない機能を作り込んだり、使えるはずの緩和を使い損ねたりします。
検索要件が不要になるのはどんな場合か#
この緩和を受けるには、まず前提として、税務調査等の際に電子取引データの「ダウンロードの求め」に応じることができるようにしている必要があります。そのうえで次のいずれかに当てはまると、検索機能の確保が不要になります(電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(令和8年7月)|国税庁 問19・問48・問51・問52)。
- 判定期間に係る基準期間(通常は2年前)の売上高が5,000万円以下である場合
- 電子取引データを出力した書面を、取引年月日その他の日付および取引先ごとに整理されたものとして提示・提出できるようにしている場合
ここは読み違えやすいところです。2つ目だけを見て「書面さえ整理しておけばデータは出せなくてよい」と受け取ると誤りになります。一問一答の問19は、書面を整理する場合についても「上記のダウンロードの求めに応じるようにしている場合」と書いており、データを渡せることは両方に共通の前提です。
1つ目の売上高は、個人事業者なら電子取引を行った日の属する年の前々年、法人なら前々事業年度の売上高で判断します(問51)。判断にあたっては次の点に注意してください。
- 消費税法上の「課税売上高」とは範囲が違います。営業外収益や特別利益は含みませんが、非課税売上額は含みます。
- 基準期間が1年でない法人は、基準期間の売上高を基準期間に含まれる事業年度の月数で割り、12を掛けた金額で判定します。
- 基準期間がない新規開業者や、新設法人の初年度・翌年度は、検索機能の確保が不要になります。
2つ目の書面の整理方法は、一問一答が3通りを示しています(問52)。課税期間ごとに日付順にまとめてから取引先ごとに整理する方法、課税期間ごとに取引先ごとにまとめてから日付順に整理する方法、書類の種類ごとにそのどちらかと同じ方法で整理する方法のいずれかです。印刷して段ボールに積んでおけばよい、という意味ではありません。
ただし、該当するからといって検索機能を持たせないのは、おすすめしません。売上高の基準は2年前の数字なので、事業が伸びれば数年後に要件が復活します。そのとき保存済みのデータへ後から索引を付け直すのは、最初から索引項目を持たせておくより手間がかかります。緩和は「いま間に合っていないときの逃げ道」と捉えるのが安全です。
猶予措置はどういう条件で使えるのか#
保存要件を満たせない場合の猶予措置もありますが、無条件ではありません。次のイとロの要件をいずれも満たしている場合に適用されます。
- イ:保存要件に従って保存することができなかったことについて、所轄税務署長が相当の理由があると認める場合
- ロ:税務調査等の際に、電子取引データの「ダウンロードの求め」と、出力した書面の提示・提出の求めの、両方に応じることができる場合
注意したいのは、ロがデータと書面の両方を求めている点です。猶予措置は「紙に印刷すればデータは捨ててよい」という措置ではありません。データは残したうえで、保存時の要件が整っていないことを許容する構造です。ここを誤解して元データを消すと、後から取り返しがつきません。
イの「相当の理由」について、一問一答は、要件に従って保存するためのシステムや社内のワークフローの整備が間に合わないなど、保存を行うための環境が整っていない事情がある場合だとしています。逆に、システムやワークフローの整備が整っていて要件に従って保存できるにもかかわらず、資金繰りや人手不足といった理由もなく保存していない場合は、適用を受けられないとされています(問93)。また、整備が間に合わないという事情が解消された後に行う電子取引には適用されません(問94)。つまり、期限で切られるのではなく事情が続いている間だけの措置です。
取引先ごとにバラバラな形式でPDFが届いていて索引付けが追いついていない、という状況であれば、猶予措置に頼りながら整備を進めるのは現実的な判断です。なお、この猶予措置の適用にあたって税務署への事前申請などの手続きは必要ありません(問93)。
電子取引データの保存要件は何か?#
電子取引データの保存要件は、改ざんされていないことを担保する「真実性の確保」と、必要なときに見られる状態にしておく「可視性の確保」の2本立てです。真実性は4つの措置のいずれか1つを選べばよく、可視性は3つの要件を満たす必要があります。電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(令和8年7月)|国税庁の問18が、要件の概要を1枚の表にまとめています。次の図は、その表に並ぶ4つの行に、真実性・可視性の区分と満たし方を補って並べ直したものです。
タイムスタンプは必須ではない#
タイムスタンプを使わなくても、真実性の確保は満たせます。問18が挙げている措置は次の4つで、いずれか1つを行えば足ります。
- タイムスタンプが付された後の授受
- 速やかに(またはその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに)タイムスタンプを付す
- データの訂正削除を行った場合にその記録が残るシステム、または訂正削除ができないシステムを利用して、授受および保存を行う
- 訂正削除の防止に関する事務処理規程を定め、備え付け、運用する
2つ目の括弧書きの取り扱いは、取引情報の授受からタイムスタンプを付すまでの各事務の処理に関する規程を定めている場合に限られます。
「電子帳簿保存法への対応にはタイムスタンプが要る」という理解は正確ではありません。自社の受発注システムや文書管理システムが訂正削除の記録を残せるなら3つ目で満たせますし、システムに手を入れられないなら4つ目の事務処理規程で対応できます。タイムスタンプの費用を検討する前に、いま使っているシステムが3つ目に当たらないかを確認してください。
可視性の確保は3つの要件でできている#
問18の表に並ぶ4つの行のうち、可視性にあたるのは次の3つです(残る1つが、いま見た真実性の措置です)。
- 電子計算機処理システムの概要を記載した書類の備付け(自社開発のプログラムを使用する場合に限ります)
- 見読可能装置の備付け等(パソコン・プログラム・ディスプレイ・プリンタを備え付け、整然とした形式および明瞭な状態で、速やかに出力できるようにすること)
- 検索機能の確保
「整然とした形式および明瞭な状態で速やかに出力できること」を独立した4つ目の要件のように数えている解説を見かけますが、これは2つ目の中身です。要件の数を誤ると、社内説明のときに話が合わなくなります。
設計で効いてくるのは、3つ目の検索機能です。検索機能の確保は、さらに3つの要件でできています(問48)。
- 取引年月日その他の日付、取引金額および取引先を検索の条件として設定できること
- 日付または金額に係る記録項目については、その範囲を指定して条件を設定できること
- 二以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定できること
検索機能はどこまで作るか#
ここにも緩和があります。同じ問48は、税務職員の質問検査権に基づく「ダウンロードの求め」に応じることができるようにしている場合には、上の2つ目と3つ目の要件は不要としています。さらにその状態で、前章に挙げた2つの条件のどちらかに当てはまれば、検索機能の確保そのものが不要になります。まとめると、自社が作るべき検索機能は3段階に分かれます。
- 1「ダウンロードの求め」に応じられない場合 — 3要件すべてが必要です。日付・金額・取引先での検索に加えて、範囲指定と2項目以上の組合せを作ります。
- 2「ダウンロードの求め」に応じられる場合 — 日付・金額・取引先を検索の条件として設定できることだけが必要です。範囲指定と組合せは要件から外れます。
- 3応じられ、かつ売上高5,000万円以下または書面の整理に当てはまる場合 — 検索機能の確保そのものが不要です。
「ダウンロードの求め」に応じるとは、税務職員が確認できる状態でデータを提出できるようにしておくことです。一問一答は、形式や並び順に統一的な決まりはないとしつつ、「通常出力できるであろうファイル形式等」で提供される必要があるとしています。出力可能な形式で求められたのに検索性などで劣る形式を出した場合は、応じたことになりません(問59)。日常使っているシステムからデータを取り出せるなら満たせることが多いので、多くの会社は2段目に当てはまります。範囲検索と組合せ検索を作り込む前に、自社がどの段にいるかを確かめてください。
自社のシステムで満たすなら、何を持たせるべきか?#
自社のシステムに持たせるものは3つあります。日付・金額・取引先で検索できる索引、訂正削除の履歴が残る設定、そしてデータ種別ごとに1か所だけ決めた正本の置き場所です。要件そのものはここまで見たとおりなので、難しいのはむしろ「自社のどのデータを、どのシステムに持たせるか」という割り振りのほうになります。電子取引データは1つのシステムから生まれるわけではなく、受発注・請求・経費精算・電子契約と発生源が分かれているからです。
次の表は、データ種別ごとに発生源・保存先・索引項目・改ざん防止の措置を割り振った例です。自社の実態に合わせて書き換えて使ってください。なお、表の発生源に挙げたEDIは、企業間で注文データなどを直接やり取りする電子データ交換(Electronic Data Interchange)の仕組みを指します。
| データ種別 | 発生源 | 保存先 | 索引項目 | 改ざん防止 |
|---|---|---|---|---|
| 注文書・注文請書 | EDI・Web受発注・メール添付 | 受発注システム | 日付・金額・取引先+注文番号 | 訂正削除の履歴が残る設定 |
| 請求書・支払通知書 | 請求システム・取引先ポータル | 請求システム/文書管理 | 日付・金額・取引先+請求番号 | 訂正削除の履歴が残る設定 |
| 領収書・レシート | 経費精算アプリ・ECの購入履歴 | 経費精算システム | 日付・金額・取引先+申請者 | 事務処理規程で補う |
| 契約書・覚書 | 電子契約サービス | 電子契約サービス/文書管理 | 日付・金額・取引先+契約種別 | 訂正削除ができない仕組みか確認 |
発生源ごとに保存先を1つに決める#
保存先は、データ種別ごとに正本を1か所だけ決め、それ以外は作業用の控えと割り切ります。よくある失敗は、同じ請求書のデータがメールボックス・共有フォルダ・請求システムの3か所に散らばっている状態です。これではどれが正本なのか誰にも言えません。税務調査でデータの提示を求められたときに探せないだけでなく、社内でも「最新版はどれか」で毎回もめます。
控えのほうに保存期間を設定して自動で消えるようにしておくと、散らばりが自然に収束します。
受発注データの置き場所をどう決めるかは、受発注システムそのものの選び方と地続きの論点です。EDI・Web受発注・自社開発のどれを軸にするかで、保存先として使えるかどうかも変わります。そちらは受発注管理システムの選び方|EDI・Web受発注・自社開発を比較で整理しています。契約書については、締結したデータをどこに残すかまで含めて電子契約サービスの選び方|方式の違いと、基幹・ワークフローとつなぐ設計で扱っています。
索引項目は「日付・金額・取引先」を必ず持たせる#
保存先を決めたら、次は索引です。設計時に決めておきたいのは、次の5点です。
- 日付・金額・取引先の3項目を、検索対象のカラムとして必ず持たせる
- 範囲検索(日付と金額)と2項目以上のAND条件は、「ダウンロードの求め」に応じられるなら要件から外れる。作るかどうかは税法ではなく自社の業務上の必要で決める
- 取引先は自由入力ではなく取引先マスタのコードで持ち、表記ゆれで探せなくなるのを防ぐ
- 注文番号・請求番号など、業務で実際に使う番号を索引に追加する
- 保存期間と、期間を過ぎたデータの扱い(削除するか、アーカイブへ移すか)を決めておく
3つ目の取引先コードは地味ですが効きます。「株式会社」と「(株)」、全角と半角が混ざったまま数年分を溜めると、取引先で絞り込む検索が事実上使えなくなります。マスタを持たない仕組みを選ぶなら、せめて入力時に正規化する処理を挟んでください。
たとえば、受発注と請求が別システムに分かれている場合#
卸売業で、受注はWeb受発注システム、請求は会計ソフトの請求機能、経費は経費精算アプリ、という構成だとします。この場合、電子取引データは3つのシステムに分かれて発生します。
このとき、すべてを1つの文書管理システムに集約する設計は、きれいに見えて現実的ではありません。各システムからデータを吸い出す連携を3本作ることになり、どれか1本が止まると保存漏れが起きます。実務的には、それぞれのシステムが要件を満たしているかを個別に確認し、満たせないものだけを文書管理システムに寄せるほうが、作る量も運用の手間も小さくなります。Web受発注システムが訂正削除の履歴を残せて日付・金額・取引先で検索できるならそのまま保存先として使い、経費精算アプリが検索要件を満たせないならそこだけ連携を1本作る、という形です。
対応はどう進めるか?#
進め方は5つのステップに分けられます。順番を飛ばすと、要件を満たすかどうかの判断ができないまま改修範囲を見積もることになり、たいてい作りすぎになります。
- ステップ1:電子取引の棚卸し — どの部署がどの取引先とどんなデータをやり取りしているかを洗い出します。漏れやすいのは、営業担当が個人のメールで受け取っている見積書と、現場が自分で購入したECの領収書です。
- ステップ2:保存先と方式の決定 — データ種別ごとに正本を置く場所と、真実性の確保のためにとる措置を決めます。ひとつ前の章の表がそのまま決定表になります。
- ステップ3:事務処理規程の整備 — 事務処理規程で対応する範囲を決め、規程を作ります。国税庁が参考資料(各種規程等のサンプル)|国税庁でWord形式のサンプルを公開しているので、自社の組織名と運用に合わせて直すのが早道です。
- ステップ4:システムの設計・設定 — 索引項目、検索、権限、保存期間をシステムに持たせます。既製品の設定変更で済むのか、改修が必要なのかがここで確定します。
- ステップ5:運用開始と定期点検 — 取引先の増減と制度の改訂に合わせて、年1回は見直します。
事務処理規程で決めること#
事務処理規程を選ぶ場合、国税庁のサンプルがあるので文面をゼロから作る必要はありませんが、自社で決めなければならない項目は残ります。
- 規程の適用範囲(対象となるデータの種類と、対象となる部署)
- データの訂正・削除を原則として禁止すること
- やむを得ず訂正・削除する場合の申請者・承認者と、申請書の様式
- 訂正・削除の記録の残し方と、その保管場所
- 規程の管理責任者
形だけの規程を作ってしまうと、運用と規程が食い違った状態が残ります。承認者を役職で決めるなら、その役職の人が実際に月何件の申請をさばけるのかまで見てから決めてください。
既存システムの改修か、基幹の刷新か#
ステップ4で改修が必要と分かったときの判断は、次を目安にしてください。
- 索引項目の追加と検索画面の改修だけで済むなら、既存システムの改修で十分です。
- 保存先が複数に散っていてどれも要件を満たさないなら、文書管理を1つ追加して寄せるほうが安く済むことが多いです。
- 基幹システム自体が古く、改修のたびに費用がかさんでいるなら、電子帳簿保存法対応を単独の案件として扱わず、刷新計画の中に含めて検討したほうが合理的です。
3つ目に当てはまりそうな場合の進め方は、基幹システム(レガシー)刷新の進め方|2025年の崖・移行リスク・段階移行で段階移行の考え方を含めて整理しています。
スキャナ保存・電子帳簿等保存もやるべきか?#
どちらも義務ではありません。電子帳簿等保存は一定の要件を満たすと税制上の優遇措置を受けられ、スキャナ保存には紙の保管スペースを減らせるという効果があります。電子取引データ保存の整備が一段落したら、次の候補として検討する価値はあります。
スキャナ保存は、紙で受け取った請求書や領収書をスキャンしてデータで保存する制度です。電子取引データ保存とは別の一問一答が用意されているので、取り組む場合は電子帳簿保存法一問一答(Q&A)|国税庁からスキャナ保存関係の資料を確認してください。
「優良な電子帳簿」にすると何が変わるのか#
「優良な電子帳簿」にすると、その帳簿に関連する過少申告があった場合の過少申告加算税の割合が、原則10%から5%に軽減されます(優良な電子帳簿のススメ!(令和6年9月)|国税庁)。
優良な電子帳簿として扱われるのは、電子帳簿等保存のうち一定の要件を満たしたものです。同じ資料が挙げている要件は次のとおりです。
- 訂正・削除・追加の履歴が残ること
- 帳簿の相互関連性があること
- 取引等の日付・金額・相手方に関する検索機能があること
- システムの説明書やディスプレイ等を備え付けていること
- データの「ダウンロードの求め」に応じることができること
あわせて、法定申告期限までに届出書を提出していることと、その課税期間の最初から優良な電子帳簿として備付け・保存を行っていることが必要とされています。課税期間の途中からは始められないので、検討するなら期首を迎える前に決めておいてください。
「デジタルシームレス保存」とは何か#
令和7年度税制改正では、請求書等のデータを帳簿に自動連携する仕組みに対応した制度が新設されました。対象となるのは、Invoice JP PINTまたはJP Self-Billingに対応したデジタルインボイス(データでやり取りする請求書)と、預貯金口座における決済データです。国税庁のパンフレットが挙げる要件は次の3つです(請求書等を帳簿に自動連携する仕組みに対応した制度が新設されました(令和7年4月)|国税庁)。
- 訂正削除履歴が残るシステム、または訂正削除ができないシステムで送受信・保存すること
- 金額の訂正削除ができないか、訂正削除した事実が確認できる状態であること
- 電子取引データと電子帳簿の相互関連性が確認できる状態であること
令和8年6月のパンフレットでは、この仕組みを「デジタルシームレス保存」と呼んでいます。法人にとっての効果は、重加算税の10%加重措置の適用除外です。令和9年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税について適用されます。
ただし、要件を満たすだけでは受けられません。適用を受けようとする国税の法定申告期限までに、所轄税務署長へあらかじめ不適用届出書を提出しておく必要があります。届出書には、要件を満たすために使用しているシステムをすべて記載します。証憑管理ソフトと帳簿作成ソフトが別々なら、その両方を書くことになります(一問一答の問79・問80)。前の小節の「優良な電子帳簿」と同じく、届出を忘れると要件を満たしていても措置を受けられません。
このほか個人事業者には、「優良な電子帳簿」または「デジタルシームレス保存」のいずれかの要件を満たして電子申告した場合に、青色申告特別控除が65万円から75万円に引き上げられる措置があります。令和9年分以後の所得税について適用されます。
システムを新しく作るなら、この方向は織り込んでおく意味があります。請求データを人手で会計へ転記している工程が残っているなら、そこは早晩やり直しになる箇所です。設計の段階からシステム構成を書き出せるようにしておくと、届出書にもそのまま使えます。
まとめ#
電子帳簿保存法への対応は、法律の全体を勉強し直す作業ではありません。義務の範囲は電子取引データ保存の1つに絞られており、満たすべきは真実性の確保と可視性の確保の2本立てです。
実務の勝負どころは、制度の理解よりも割り振りのほうにあります。受発注・請求・経費精算・電子契約という発生源ごとに正本の置き場所を1つ決め、日付・金額・取引先で検索できる索引を持たせる。この2つが決まれば、改修が必要な範囲はおのずと絞り込まれます。
そのうえで、検索機能をどこまで作るかは「ダウンロードの求め」に応じられるかどうかで決まります。データを出せる状態にしておけば、作るのは日付・金額・取引先の3項目だけで足ります。緩和や猶予措置は逃げ道として押さえつつ、この3項目の索引だけは最初から持たせておく。これが、後からの作り直しと、いらない作り込みの両方を避ける線引きです。
よくある質問(FAQ)#
Q. メールに添付で届いたPDFの請求書も保存の対象になりますか?
A. 対象になります。国税庁のパンフレットは、注文書・契約書・送り状・領収書・見積書・請求書などに相当する電子データを電子取引の例として挙げています。紙に印刷して保管していても、データのほうを保存しないまま消してよいことにはなりません。
Q. 検索できる仕組みがなくても対応できますか?
A. 一定の条件に当てはまれば、検索機能の確保の要件は不要になります。ただし、どちらの条件も税務調査等の際に「ダウンロードの求め」に応じられることが前提です。そのうえで、判定期間に係る基準期間(通常は2年前)の売上高が5,000万円以下であるか、出力した書面を取引年月日その他の日付および取引先ごとに整理されたものとして提示・提出できるようにしていれば、検索機能の確保は不要です。なお、この2つに当てはまらなくても、「ダウンロードの求め」に応じられるなら範囲指定と2項目以上の組合せの要件は外れます。売上高は2年前の数字なので、事業が伸びれば要件は復活します。
Q. 猶予措置はいつまで使えますか?
A. 期日は定められていません。所轄税務署長が相当の理由があると認めることと、税務調査等の際にデータの「ダウンロードの求め」と書面の提示・提出の求めの両方に応じられることの2つを満たす場合に適用されます。ただし、システムや社内のワークフローの整備が間に合わないといった事情が解消された後に行う電子取引には適用されません。期限で区切られるのではなく、事情が続いているかどうかで判断される仕組みだと理解してください。
Q. 紙で受け取った請求書はどうすればよいですか?
A. 紙で受け取ったものは電子取引には当たらないため、紙のまま保存して構いません。データ化したい場合はスキャナ保存の制度を使うことになりますが、こちらは希望する事業者が行う制度で、義務ではありません。
Q. 電子契約で結んだ契約書や、データで受け取った適格請求書も対象ですか?
A. どちらもデータで取引情報をやり取りしている以上、電子取引データとして、この記事で説明した真実性・可視性の要件で保存します。適格請求書(インボイス制度で定められた記載事項を満たす請求書)をデータで受け取った場合も同じ扱いです。契約データを電子契約サービスの中に置き続けるのか、自社の文書管理へ複製するのかは、電子契約サービスの選び方|方式の違いと、基幹・ワークフローとつなぐ設計もあわせて検討してください。
電子取引データの保存設計について相談する#
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