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HACCP対応をシステムで進める|記録・温度管理をどこまで仕組み化するか

2026.10.10

HACCPへの対応について、「結局どのシステムを買えばよいのか」というご相談をいただくことがあります。先に結論を書くと、制度が求めているのは認証の取得ではなく、衛生管理計画をつくり、実施を記録し、定期的に見直すことそのものです。紙の記録でも成立します。

ではシステムは何のために入れるのか。記録が毎日続くか、必要なときに過去を探し出せるか——運用の問題を解くためです。厚生労働省のQ&Aは記録を電磁的記録として保存してよいとしたうえで、留意すべき3点を挙げています。この3点がそのままシステムの要件になります。紙の記録を仕組みに乗せる段階を4つに分け、どこから手を付けるのが早いかを、開発を担う立場から整理します。

HACCPに沿った衛生管理の2つの区分
HACCPに沿った衛生管理の2つの区分

HACCPの制度化とは?何が義務になったのか#

義務になったのは「HACCPに沿った衛生管理」の実施です。食品衛生法等の一部を改正する法律(平成30年法律第46号)は平成30年6月13日に公布されました(HACCPに沿った衛生管理の制度化に関するQ&A|厚生労働省)。厚生労働省は、令和3年6月1日から、原則としてすべての食品等事業者が取り組むこととしており(HACCP(ハサップ)|厚生労働省)、HACCPの考え方を取り入れた衛生管理|厚生労働省のページは2021年6月1日付の重要なお知らせで「HACCPに沿った衛生管理が完全施行されました」と告知しています。

営業者が実施することとされているのは、衛生管理計画の作成と従業員への周知徹底、必要に応じた手順書の作成、実施状況の記録と保存、計画と手順書の効果を定期的に検証して見直すことの4つです。

認証は取らないといけないのか?#

取る必要はありません。HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理の制度化に関するQ&A(平成30年8月31日作成、最終改正:令和7年3月31日)|厚生労働省の問19は「新制度のHACCPに沿った衛生管理の実施にあたって、認証や承認の取得は必要ありません」と明記しています。実施状況は、保健所等が通常の定期立入検査や営業許可の更新等の際に監視指導する仕組みで、「営業許可の基準(要件)には衛生管理計画は含まれません」とも書かれています。

JFS・FSSC22000・ISO22000・SQFといった民間認証も、同Q&Aの問20で「あくまで事業者による任意の取組」とされています。取引先から求められるかどうかは、制度上の義務とは別の判断軸です。

自社はどちらの区分に当たるのか?#

区分は2つで、どちらに当たるかで計画の作り方と記録の様式が変わります。

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観点HACCPに基づく衛生管理HACCPの考え方を取り入れた衛生管理
拠って立つものコーデックス委員会が策定したHACCP7原則業界団体が作成し、厚生労働省が内容を確認した手引書
計画の作り方原材料や製造方法等に応じ、事業者自らが作成手引書のひな形を利用して準備
主な対象小規模な営業者等に当たらない事業者従事者50人未満の事業場、飲食店等の調理、併設店舗での小売販売など
記録実施状況を記録し、保存手引書の記録様式を利用し、推奨された期間保存

なお、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の対象事業者が「HACCPに基づく衛生管理」を実施することもできます(Q&A問4)。手引書は両方の区分について公表されています。

小規模な営業者等は、何をどこまで記録すればよいのか#

記録項目を自分で発明する必要はありません。手引書のひな形と記録様式をそのまま使い、手引書が推奨する期間保存すれば足ります。

厚生労働省は、小規模営業者等が手引書を参考に次の1〜6を実施していれば、法第51条第2項の規定に基づき「営業者は厚生労働省令に定められた基準(一般衛生管理の基準とHACCPに沿った衛生管理の基準)に従い、公衆衛生上必要な措置を定め、これを遵守している」と見なすとしています。

  1. 1手引書の解説を読み、自分の業種・業態では何が危害要因となるかを理解する
  2. 2手引書のひな形を利用して、衛生管理計画と(必要に応じて)手順書を準備する
  3. 3その内容を従業員に周知する
  4. 4手引書の記録様式を利用して、衛生管理の実施状況を記録する
  5. 5手引書で推奨された期間、記録を保存する
  6. 6記録等を定期的に振り返り、必要に応じて計画や手順書の内容を見直す

Q&Aの問15も、まずは手引書の内容をそのまま実施するか、手引書を参考に衛生管理計画を作成して実施するよう促しています。

「従事する者が50人未満」はどう数えるのか#

ここは実務で判断に迷いやすいところです。Q&Aは次のように整理しています。

  • 一の事業所での従業員数は、前年度の各月の1日あたりの食品の製造又は加工に従事する者の数の平均に基づき判断する(問10)
  • 人事、経理、営業又は設備保全の担当者等、製造・加工等の作業に直接的に携わらない者は含まれない(問11)
  • 工程の一部を外部事業者に委託している場合も、その人数を含めて判断する(問10)
  • 繁忙期に一時的に増員されても、1年間の平均が50人未満なら対象となる(問10)
  • 複数の営業許可を取得している場合は、基本的に、許可業種ごとではなく事業場全体で計算する(問12)
  • 保健所の食品衛生監視員に求められた場合は、算出根拠を示して説明する(問10)

最後の1行が地味に効いてきます。勤怠データから食品取扱者だけを抜き出して月平均を出せるようにしておくと、根拠を聞かれたときに手作業で集計し直さずに済みます。

記録をどこまで仕組み化するか?#

一度に全部をシステムへ載せる必要はありません。段階は4つで、次へ進むかどうかは、いまの段階で表の右端の困りごとが出ているかで判断します。

HACCPの記録を仕組み化する4つの段階
HACCPの記録を仕組み化する4つの段階
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段階やることこの段階でできること次へ進む条件
段階1:紙で記録する手引書の様式を印刷して記録するともかく記録を始められる記録漏れに気づけない/保管場所が足りない
段階2:記録アプリに入れるスマートフォン・タブレットで入力する未記録がその日に分かる/過去を探せる温度の手入力が負担/測り忘れが残る
段階3:温度センサと連携する庫内温度を機器から自動で取得する測り忘れと転記ミスが消える複数店舗の状況を本部で見たい
段階4:既存システムにつなぐPOS・在庫・仕入のデータとつなぐ店舗横断で未対応が分かる/原材料まで追える—

飲食店なら、まず厚生労働省のアプリを試す価値がある#

2026年6月、厚生労働省が一般飲食店事業者向けHACCP衛生管理記録アプリ|厚生労働省を公開しました。食品衛生法改正事項実態把握事業として作成されたもので、衛生管理計画や実施記録を入力できます。スマートフォン・タブレット専用です。

段階2に相当するものが公的に提供されているので、開発や外部サービスの検討前にこれで足りるかを確かめるのが順序として早いです。自社向けの開発が必要になるのは、おおむね次の場合です。

  • 多店舗を本部で集約し、未記録の店舗をその日に把握したい
  • 一般飲食店以外の業態で、自分の業種の手引書に合わせた記録項目が必要
  • POS・在庫・仕入のデータと突き合わせたい、または機器から自動で取り込みたい

自動化できるのはどの部分か#

同アプリの操作マニュアルによれば、一般衛生管理のポイントは全部で7項目あり、それぞれ「いつ」「どのように」「問題があったとき」をチェックまたは記入する形になっています(操作マニュアル(一般衛生管理のポイント)|厚生労働省)。重要管理のポイントは、第1グループ(非加熱のもの)、第2グループ(加熱するもの)、第3グループ(加熱後、冷却と加熱を繰り返すもの)の3カテゴリです(操作マニュアル(重要管理のポイント)|厚生労働省)。記録をこの単位で分けると、手を付ける順番が決まります。

記録の種類ごとに自動化できる部分と人が判断する部分
記録の種類ごとに自動化できる部分と人が判断する部分
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記録の種類自動化できる部分人が判断して残す部分
一般衛生管理のポイント(7項目)実施したかどうかの入力欄、記録者と時刻「問題があったとき」の理由と対処内容
庫内温度の確認温度の測定と記録(センサ・自記温度計)規定の温度を外れたときの対処と再確認
重要管理のポイント(3グループ)メニューとグループの対応、記録の様式加熱・冷却の確認結果と、外れたときの判断
毎月の振り返り未記録と「否」の件数の集計計画や手順書を見直すかどうかの判断

**センサを入れても「問題があったとき」の欄は埋まりません。**温度を自動で取ること自体は難しくありませんが、規定を外れたときに誰が何をしたかが残らなければ、記録としては不完全なままです。

記録をシステムに乗せるとき、何を満たす必要があるか#

Q&Aの問35は、衛生管理の実施状況の記録を電磁的記録として保存しても差し支えないとしたうえで、留意すべき事項を3点挙げています。この3点が、そのままシステムの要件になります。

電磁的記録で満たすべき3点
電磁的記録で満たすべき3点
  1. 1保存すべき期間中において、記録された事項の改変又は消去の事実の有無及びその内容を確認することができる措置を講じ、かつ、当該電磁記録の作成に係る責任の所在を明らかにしていること
  2. 2電磁的記録に記録された事項を画面や帳簿(紙)に出力することにより、直ちに明瞭かつ整然とした形式で使用に係る電子計算機その他機器に表示し、書面を作成できるようにすること
  3. 3保存すべき期間中において復元可能な状態で保存することのできる措置を講じていること

開発側の言葉に置き換えると、次のようになります。

  • 1点目は改変履歴と責任者です。上書きで前の値が消える仕様にはできません。誰がいつ入れ、誰がいつ直したかが残る必要があります。
  • 2点目は画面と紙への出力です。立入検査でその場に提示する場面を想定し、日付や項目で絞って印刷やPDFにできるようにします。
  • 3点目は期間中の復元可能性です。バックアップだけでなく、解約時にデータを持ち出せるか(エクスポートの形式)まで確認します。

厚生労働省のアプリは、1点目の考え方が実装の形で見えるので参考になります。日々の記録は2日前までさかのぼって入力でき、2日間を過ぎると各項目の記録はできず、変更・追記は特記事項欄に記載する運用で、特記事項入力の最終更新日時が記録されます。チェック者欄への名前の入力は必須です(操作マニュアル(一般衛生管理の実施記録)|厚生労働省)。この「さかのぼれる期間を区切り、それ以降は追記として最終更新日時を残す」考え方は、自社で作る場合にも使えます。

温度センサの記録はそのまま使えるのか#

使えます。Q&Aの問35は、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(昭和26年12月26日厚生省令第52号)や食品、添加物等の規格基準(昭和34年12月28日厚生省告示第370号)に規定されている自記温度計の記録を、コンピュータ等により直接データの作成を行い保存することも、上の3点を満たせば問題ないとしています。

なお、**庫内温度の閾値はこの記事では決められません。**業種や取り扱う食品で異なるため、自分の業種の手引書に印字されている値に従ってください。保存期間も同じく「手引書で推奨された期間」が基準です。

選ぶとき・作るときに見る4項目#

製品の機能数ではなく、次の4点で見てください。

  • 自分の業種の手引書の様式と、記録項目が対応しているか
  • 上の3要件を満たすか(改変履歴と責任者/画面と紙への出力/期間中の復元可能性)
  • 多店舗を本部で集約し、未記録の店舗がその日に分かるか
  • 既存のPOS・在庫・仕入のシステムとつなげるか

最後の点は、棚卸システムの導入|実地棚卸の負担と在庫差異を減らすや食品・宅配/物流のシステム化|受注・在庫・配送を効率化する基幹&現場DXで扱う在庫・入出荷のデータと地続きです。原材料の受入確認を記録用紙に手書きし、同じ内容を仕入システムにも入力しているなら、二重入力として最初に解消できる候補です。

導入はどう進めるか?よくあるつまずき#

現状の記録の棚卸しから始め、1店舗・1業態で試してから広げます。

  1. 1いま紙で何を何枚、誰が記録しているかを数える(様式と記録者を一覧にする)
  2. 2自分の業種の手引書の様式と突き合わせ、足りない項目・余分な項目を洗い出す
  3. 3段階2で1店舗を1か月運用し、未記録がどこで出るかを見る
  4. 4温度の手入力が負担になっている箇所だけ、段階3に上げる
  5. 5本部で見る必要が出た時点で、段階4の連携を設計する

つまずきやすいのは次の3つです。

  • **紙とシステムの二重運用が残る。**移行期間を決めずに始めると、紙にも書いてアプリにも入れる状態が定着します。どの様式をいつ紙から外すかを先に決めます。
  • **センサを入れただけで記録が完成したと考える。**閾値を外れたときに誰に通知し、誰が対処を書くのかまで設計に含めます。
  • **保健所に提示する段取りを決めていない。**検査の場で誰がどの画面から出すのかを、運用として決めておきます。

店舗側のオペレーション全体を見直す文脈では、店舗DX・モバイル活用ガイド|人手不足を仕組みで解決するも合わせてご覧ください。

まとめ#

  • 義務は「HACCPに沿った衛生管理」の実施であり、認証や承認の取得は必要ない
  • 小規模な営業者等は、手引書のひな形と記録様式をそのまま使えばよい(法第51条第2項によるみなし)
  • 「従事する者50人未満」は前年度の月平均で判断し、人事・経理・営業・設備保全は数えない
  • 記録は電磁的記録でよい。ただし改変履歴と責任者/画面と紙への出力/期間中の復元可能性の3点を満たす
  • 仕組み化は4段階。飲食店はまず厚生労働省の記録アプリで段階2を試し、センサは「測る」だけを自動化するものと捉える

よくある質問(FAQ)#

Q. 従業員が数人の小さな店でも対象になりますか?

A. 原則としてすべての食品等事業者が対象です。従事する者が50人未満の事業場は「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」という区分になるだけで、対象外になるわけではありません。制度化の対象外とされているのは農業及び水産業における食品の採取業です。食品又は添加物の輸入業、貯蔵又は運搬のみをする営業(冷凍・冷蔵倉庫業は除く)などは、一般的な衛生管理は実施する必要がありますが、HACCPに沿った衛生管理を実施する必要はないとされています。

Q. 紙の記録のままでも問題ありませんか?

A. 問題ありません。義務は記録して保存することで、媒体は限定されていません。電磁的記録として保存する場合は、Q&A問35の3点(改変履歴と責任者、画面と紙への出力、期間中の復元可能性)に留意することとされています。

Q. 温度センサの導入は必須ですか?

A. 必須ではありません。自記温度計の記録をコンピュータ等により直接データの作成を行い保存することは、Q&A問35の3点を満たせば問題ないとされていますが、センサの設置自体が求められているわけではありません。庫内温度の管理方法や閾値は、自分の業種の手引書に従ってください。

Q. 記録はどのくらいの期間保存すればよいですか?

A. 「手引書で推奨された期間」が基準です。業種ごとに異なるため、食品等事業者団体が作成した業種別手引書|厚生労働省から自分の業種のものを確認してください。

Q. 民間認証は取ったほうがよいのでしょうか?

A. 食品衛生法に基づく規制としては求められていません。ただしQ&A問20では、JFS・FSSC22000・ISO22000・SQF等を取得した施設について、立入検査等の際に認証に必要な書類や記録、審査や監査の結果等を活用して事業者負担の軽減に配慮するとされています。取引先からの要請があるかどうかで判断することになります。

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#HACCP#衛生管理#温度管理#記録アプリ#食品#店舗DX