不動産業のDX・システム活用|物件管理・追客・電子契約と業務システムの作り方
2026.08.24
不動産業のDXとは、物件管理・顧客管理・追客(反響対応)・契約という日々の業務を、紙・Excel・個人の勘に頼る状態から、データとシステムで回る形へ組み替える取り組みです。制度面では、テレビ会議等を使うオンラインの重要事項説明(IT重説)が、賃貸取引では2017年10月1日に、売買取引では2021年3月30日に本格運用を開始しました。さらに2022年5月18日には、重要事項説明書等を電子データで提供できるようにする改正が施行されています。この3段階の解禁によって、「対面・紙・押印」を前提にしていた契約業務まで、現実的に見直せるようになりました。
結論から言えば、不動産DXは高機能なシステムを一括で作ることではありません。物件・顧客・追客はSaaS(既製の業務クラウド)を軸に素早く整え、基幹システムや電子契約、自社サイトとの連携といった“自社ならではの部分”だけを受託開発や内製で補う——この使い分けが、費用と効果のバランスを最も取りやすくします。
本記事では、不動産DXの全体像、IT重説・書面電子化の制度を正確に整理したうえで、SaaS・受託・内製の使い分けと、物件・顧客・追客・契約の組み立て方までを、経営者・事業責任者・情シスの方がそのまま検討に使える形で解説します。
不動産業のDXとは?(何をデジタル化するのか)#
不動産DXとは、物件・顧客・追客・契約という4つの業務領域を、データで連携して回せる状態にすることです。不動産会社の業務は、突き詰めると次の4つの領域に整理でき、まずこれを分けて捉えると、どこから手をつけるかが見えてきます。
次の図は、不動産DXで対象になる4つの業務領域を整理したものです。
4つの業務領域#
- 物件管理:物件情報・在庫・ポータル掲載・図面や写真の管理
- 顧客管理(CRM):問い合わせ・来店・商談の履歴を一元管理
- 追客(反響対応):反響のあった見込み客へメールやSMSで継続対応し、成約につなげる
- 契約:重要事項説明のオンライン化(IT重説)と、契約書面の電子化(電子契約)
これらは本来つながっているのに、実務では別々のツールや紙・Excelに散らばりがちです。DXの狙いは、4つの領域をデータで連携させ、二重入力や転記をなくすことにあります。
なぜ今、不動産DXが必要なのか?#
人手不足と、紙・Excel・属人化による非効率が限界に近づく一方、制度面ではオンライン契約が解禁され、刷新の条件が整ったからです。物件情報の転記、反響対応の遅れ、来店前提の契約手続きは、担当者の負担と機会損失を生みます。
レガシー化と属人化が変革を妨げる#
経済産業省の研究会がまとめたDXレポートでも、既存システムの複雑化・老朽化・ブラックボックス化(レガシー化)が変革を妨げると指摘されています。不動産業でも、担当者しか分からないExcelや部署ごとにバラバラなツールが同じ状態を生みます。
制度解禁で「対面・紙・押印」の前提が外れた#
後述するIT重説と書面の電子化の解禁により、「対面・紙・押印」を前提にしなくてよくなりました。人手不足への対応と、解禁された制度を刷新のきっかけにできることが重なる今が、現実的なタイミングです。
IT重説・電子契約はいつ解禁された?(制度の正確な整理)#
賃貸のIT重説は2017年10月1日、売買のIT重説は2021年3月30日に本格運用が始まり、重説書面・契約書面を電子データで提供できるようにする改正は2022年5月18日に施行されました。この3つは別々のタイミングで解禁された、それぞれ異なる制度です。不動産DXの契約領域は国の制度解禁が土台になるため、国土交通省の情報をもとに、時系列で正確に押さえておきましょう。
次の図は、オンライン契約に関わる制度解禁の流れを段階で示したものです。
制度解禁の3つの段階#
- 2017年10月1日:賃貸取引でIT重説(テレビ会議等を使うオンライン重要事項説明)が本格運用を開始(平成29年10月1日より賃貸取引に係るIT重説の本格運用を開始|国土交通省 土地・建設産業局不動産業課)。
- 2021年3月30日:売買取引でも「オンラインによる重要事項説明」(IT重説)が本格運用を開始(不動産の売買取引に係る「オンラインによる重要事項説明」(IT重説)の本格運用について|国土交通省 不動産・建設経済局)。
- 2022年5月18日:書面の電子化を可能とする政省令の改正が施行され、重要事項説明書(35条書面)・契約締結時書面(37条書面)・媒介契約書(34条の2書面)を、電磁的方法(電子データ)で提供できるようになりました。国土交通省は「宅地建物取引業の書面の電子化を可能とする政省令が改正され、令和4年4月27日に公布、令和4年5月18日から施行されます」と案内しています(ITを活用した重要事項説明及び書面の電子化について|国土交通省)。
つまり、2022年5月18日に始まったのは「書面の電子化」であって、IT重説そのものはそれより前から使えた、という整理になります。
書面の電子化には相手方の事前承諾が必要#
ポイントは、書面の電子化には相手方の事前の承諾が必要な点です。国土交通省も「書面の電子化を受けることについて説明の相手方等へ意向確認を行い、承諾を得る必要があります」としています。無条件に全部オンラインで完結するのではなく、承諾の取得や本人確認、システム面の要件を満たす前提で使う制度だと理解しておくことが大切です。
業務システムはSaaS・受託・内製をどう使い分ける?#
物件・顧客・追客など各社共通の業務はSaaS、基幹連携や自社独自の仕組みは受託開発、運用の中心に人がいる小さな改善は一部内製、と役割で分けるのが基本です。不動産向けには、物件管理・CRM・追客・電子契約それぞれにSaaSが揃っており、まずSaaSで賄える部分は賄い、“自社ならでは”の部分だけを開発する順で考えると失敗しにくくなります。
3つの選択肢の向き・不向き#
| 選択肢 | 向く領域 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|---|
| SaaS(既製クラウド) | 物件管理・CRM・追客・電子契約 | 早く安く始められる・保守込み | 自社の業務に合わせにくい・連携に制約 |
| 受託開発 | 基幹連携・独自機能・複数SaaSの統合 | 業務に合わせて作れる | 費用と期間がかかる |
| 内製 | 小さな改善・運用の自動化 | 素早く回せる | 人材確保と属人化に注意 |
内製はどこまで担うか#
内製が効くのは、レポートの集計や定型作業の自動化、SaaSの設定変更といった「毎週のように手を入れる小さな領域」です。逆に、基幹システムとの連携や電子契約まわりのように、止まると業務が止まる部分を少人数の内製で抱えると、担当者が抜けた瞬間に維持できなくなります。内製と外注の線引きはシステム開発は内製と外注どっちがいい?判断基準とメリット・デメリットで詳しく整理しています。
多くの不動産会社では「SaaSを軸に、足りない連携だけ受託」が現実解になります。要件定義から運用まで一貫して任せられる体制があるかは、外注先を選ぶ際の重要な判断材料です。弊社の対応範囲はシステム開発でご紹介しています。発注の進め方はシステム開発の発注完全ガイド|流れ・要件定義・見積もり・契約、費用の考え方はシステム開発費用の相場|費用の決まり方と見積もりの見方で解説しています。
物件・顧客・追客・契約はどう組み立てる?(構築の型)#
SaaSで各業務を整え、それらと基幹・自社サイト・電子契約を“連携”でつなぐのが、無理なく効果を出す型です。バラバラのSaaSを入れるだけでは二重入力が残るため、鍵はデータを連携させ、一度の入力で回すことにあります。
次の図は、SaaSで担う領域と、受託開発・内製で補う連携領域の役割分担を示したものです。
領域ごとの役割分担#
- 物件・顧客・追客:SaaSを軸に整え、反響対応はメール・SMSの自動化で取りこぼしを減らす
- 契約:IT重説と電子契約のSaaSを、承諾取得・本人確認の運用とあわせて導入する
- 連携・自動化:基幹・会計や自社サイト、ポータルとの連携、レポートの自動化を受託/内製で補う
紙の図面や契約書のデータ化、問い合わせの一次対応など、人手が集中する工程はAIで補える部分もあります。AI-OCRやAIチャットボット、AI×RPAの活用はAIソリューションでご紹介しています。どこを自動化すると効果が大きいかは業務自動化の進め方|どこからAIを使うかを見極めるも参考になります。大切なのは、最初に何を一元管理し、何をつなぐかを決めておくことです。ここが曖昧だと、SaaSを増やすほど分断が進みます。
弊社(株式会社TryWith)の支援#
弊社では、不動産業のDXを、SaaS選定から基幹・SaaS連携の実装まで、開発を担う立場からお手伝いしています。物件管理・CRM・追客・電子契約のどこにSaaSを使い、どこを受託開発でつなぐかの見極め、基幹や会計システムとのデータ連携、自社サイトやポータルとの接続、反響対応やレポートの自動化まで、受託開発とスポットCTO的な関与の両面で対応します。「SaaSは入れたが連携できていない」「制度解禁を機に契約業務を見直したい」といった課題に、現状整理から現実的な進め方を一緒に描きます。
「何から着手すべきか整理したい」「複数のSaaSと基幹をつなぎたい」といったご相談に、現状把握からお応えします。
よくある質問(FAQ)#
Q. 不動産DXは何から始めればいいですか?
A. まず物件・顧客・追客・契約のどこに一番ムダや遅れがあるかを見極め、SaaSで賄える領域から始めるのが現実的です。最初に「何を一元管理し、何を連携させるか」を決めておくと、後から広げやすくなります。
Q. IT重説はいつから使えますか?
A. 賃貸取引は2017年10月1日、売買取引は2021年3月30日から本格運用されています。テレビ会議等を用いる方法で、事前の書面送付や通信環境の確認など、国が示す要件に沿って実施します。
Q. 契約書面はすべて電子化できますか?
A. 2022年5月18日以降、重要事項説明書・契約書面・媒介契約書を電子データで提供できます。ただし相手方への意向確認と承諾の取得が必要で、本人確認やシステム要件を満たす前提となります。
Q. SaaS・受託開発・内製はどう使い分けますか?
A. 物件・顧客・追客など各社共通の業務はSaaS、基幹連携や自社独自の仕組みは受託開発、レポート集計や定型作業の自動化といった小さな改善は内製が向きます。多くの場合「SaaSを軸に、足りない連携だけ受託し、日々の細かい改善を内製で回す」形が費用対効果に優れます。
Q. 既存の基幹システムと新しいSaaSは連携できますか?
A. 多くの場合、API連携やデータ連携で対応できます。まず既存システムの仕様と、出入りするデータを確認し、連携方式と範囲を設計してから進めると安全です。
まとめ#
不動産業のDXは、物件・顧客・追客・契約の4領域を、データで連携して回る形に組み替える取り組みです。IT重説は賃貸取引が2017年10月1日、売買取引が2021年3月30日に本格運用を開始し、重説書面・契約書面を電子データで提供できるようにする改正は2022年5月18日に施行されました。この3段階の制度解禁により、契約業務まで現実的に刷新できるようになりました。進め方の基本は、SaaSを軸に素早く整え、基幹連携や自社独自の部分だけを受託開発・内製で補うことです。最初に「何を一元管理し、何をつなぐか」を決めれば、SaaSを増やしても分断せず、費用と効果のバランスを保てます。制度解禁を、業務全体を見直すきっかけにしましょう。
出典:平成29年10月1日より賃貸取引に係るIT重説の本格運用を開始|国土交通省 土地・建設産業局不動産業課(2017年9月8日発表。賃貸取引のIT重説は2017年10月1日より本格運用)/不動産の売買取引に係る「オンラインによる重要事項説明」(IT重説)の本格運用について|国土交通省 不動産・建設経済局(2021年3月30日発表。売買取引のIT重説は2021年3月30日より開始)/ITを活用した重要事項説明及び書面の電子化について|国土交通省(書面の電子化を可能とする政省令は2022年4月27日公布・2022年5月18日施行。相手方への意向確認と承諾が必要である旨も同ページ)/DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~|経済産業省 デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会(2018年9月7日公表。既存システムの複雑化・老朽化・ブラックボックス化に関する指摘はP.32)
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