システムの保守・運用費用の相場は?内訳・契約形態・見直しのポイント
2026.08.17
「システムは作って終わり」ではありません。公開したあとも、障害対応や改修、インフラの維持といった保守・運用の費用が毎年かかり続けます。この「開発後のコスト」を見落としたまま予算を組むと、あとから想定外の出費に驚くことになります。
保守・運用費用については「開発費の何%」という目安が語られがちですが、実際の金額は要件・構成・SLA(対応時間の取り決め)によって大きく変わります。大切なのは比率を鵜呑みにすることではなく、何にいくらかかっているのか(内訳)と、どの契約形態で頼むのかを理解し、自社にとって適正な範囲を見極めることです。
本記事では、保守・運用費用の内訳、公開されている調査で確認できる水準と費用が変わる要因、契約形態の選び方、そして「安い保守」の落とし穴と見積もりチェックまでを、予算を検討する決裁者・情シスの方がそのまま使える形で整理します。
システムの保守・運用費用とは?(何にかかるお金か)#
保守・運用費用とは、稼働中のシステムを正常に使い続けるためにかかる継続的な費用です。大きく分けると、保守(不具合の修正や小さな改修)と運用(監視・インフラ維持・問い合わせ対応)の2つに分かれます。
保守と運用は何が違うのか#
保守は、不具合の修正や仕様変更への対応など、システムそのものに手を入れる作業を指します。運用は、稼働監視やインフラの維持、ユーザーからの問い合わせ対応など、システムを止めずに使い続けるための作業です。実務では両者を厳密に切り分けず、「保守・運用」としてひとつの契約にまとめることが多くあります。
費用の主な内訳は4つに分かれる#
保守・運用費用の主な内訳は、次の4つです。
- 障害対応・不具合修正:エラーやバグへの対応、緊急時の復旧
- 機能改修・追加開発:仕様変更や小さな機能追加、法改正などへの対応
- インフラ・ライセンス:サーバー・クラウドの利用料、ミドルウェアや外部サービスの利用料
- 監視・問い合わせ対応:稼働監視、ユーザーからの問い合わせ・運用サポート
「開発費」は作るときの一度きりの費用ですが、保守・運用費は毎年かかる継続費用です。両者を分けて見積もることが、予算計画の第一歩になります。開発そのものの費用はシステム開発費用の相場|費用の決まり方と見積もりの見方で解説しています。
費用の相場はどれくらい?(目安と変動要因)#
「開発費の何%」という一律の相場は存在しません。参照できる公開の調査値は限られており、実際の金額はシステムの規模やSLA、改修の頻度によって大きく変わります。
業界団体の調査で確認できる水準#
数少ない公開データとして、JUAS(一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会)のソフトウェアメトリックス2018年版があります。同調査の「保守費用分析 稼働後の保守費用はどの程度かかるのか?」では、自社開発システムについて、初期開発費用に対する年間保守費用の比率が初年度7.6%、5年度8.5%、5年間の年平均8.0%と報告されています。
ただしこれは調査に回答した企業の平均値であり、あらゆるシステムに当てはまる「相場」ではありません。同じ規模でも、24時間365日の対応が必要なシステムと、平日日中のみ対応すればよいシステムとでは費用は変わります。弊社(株式会社TryWith)でお見積もりを作成する際も、この調査値を出発点にしつつ、弊社の実績にもとづく目安として金額の幅をお示ししたうえで、要件・構成・SLAに合わせて調整しています。
相場を左右する5つの要因#
実際の保守・運用費は、次の要因によって大きく変わります。
- システムの規模・複雑さ:機能や連携が多いほど、維持の手間も増える
- 求めるSLA(対応時間):24時間対応や短い復旧時間を求めるほど高くなる
- 改修の頻度:仕様変更や機能追加が多いほど、保守の稼働が増える
- インフラの構成:クラウド利用料やライセンス費は使い方で変動する
- 属人化の度合い:特定の人しか分からない状態だと、対応コストが上がりやすい
IT予算の多くは「維持・運営」に配分されている#
保守・運用費は「小さな固定費」に見えても、長く積み上がると開発費を上回ります。2018年に経済産業省が公表したDXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~は、「我が国企業のIT関連予算の80%は現行ビジネスの維持・運営(ラン・ザ・ビジネス)に割り当てられている」と指摘し、「2025年の崖」として警鐘を鳴らしました。
この80%は、同レポートがJUASの企業IT動向調査を引用したものです。その後の同調査にあたる企業IT動向調査2025(2024年度調査)でも、IT予算に占めるランザビジネス予算(現行ビジネスの維持・運営)の割合は24年度で76.2%とされています。どちらも実際の支出額ではなくIT予算の配分比率を示した数値ですが、IT投資の大半が「守り」に向いている構図は、DXレポートが出た2018年当時から大きくは変わっていません。だからこそ、保守費用を「なんとなくの固定費」で放置せず、内訳と契約を見直す価値があります。
契約形態はどう選ぶ?(都度・定額・常駐)#
保守の契約形態は、主に「都度対応(従量)」「月額固定(定額)」「常駐(SES)」の3つです。費用の考え方と向くケースが異なるため、システムの重要度と改修の見込みで選びます。
都度・定額・常駐の3つを比較する#
| 契約形態 | 費用の考え方 | 対応スピード | 向くケース |
|---|---|---|---|
| 都度対応(従量) | 発生した作業ごとに支払う | 依頼から着手まで時間がかかりやすい | 障害が少なく、変更もまれなシステム |
| 月額固定(定額) | 一定範囲を月額で継続契約 | 契約範囲内なら速い | 継続的に小改修・監視が必要なシステム |
| 常駐(SES) | 人員を一定稼働で確保 | 最も速い・柔軟 | 改修が多く、事業の根幹を担うシステム |
多くの業務システムは「月額固定」が基本#
多くの業務システムは「月額固定(定額)」が基本の選択肢になります。障害がまれなら都度対応で十分ですし、逆に改修が絶えない基幹システムなら常駐に近い体制が向きます。
保守レベルはどう決める?(最低限・標準・手厚い)#
保守は「手厚くするほど高い」ため、システムの重要度に合わせてレベルを選ぶのが現実的です。次の3段階で考えると、過不足なく決められます。
- 最低限:障害が起きたときだけ対応。止まっても業務影響が小さいシステム向け。
- 標準:月額固定で、監視+小改修+問い合わせ対応まで。多くの業務システムの標準形。
- 手厚い:短いSLA(早い復旧)、常時監視、改善提案まで。止められない基幹・売上直結のシステム向け。
すべてを手厚くする必要はありません。「止まると事業に響くか」を基準に、システムごとにレベルを割り当てると、費用のかけどころがはっきりします。
「安い保守」の落とし穴は?#
保守費用は安いに越したことはない、と思いがちですが、安すぎる契約には落とし穴があります。
- 対応範囲が狭い:「監視だけ」で、改修や問い合わせは別料金になっている
- 対応が遅い:SLAがなく、障害時にいつ直るか分からない
- 改修が毎回別見積もり:小さな変更でも都度費用がかさみ、結局割高になる
- 属人化・ブラックボックス化:担当者しか分からず、他社に引き継げず値上げされても断れない
- ドキュメントがない:内部構造が不明で、将来の改修コストが跳ね上がる
安さだけで選ぶと、いざというときに動かない・引き継げない状態になりがちです。金額だけでなく「対応範囲・スピード・引き継ぎやすさ」を合わせて比較することが大切です。ベンダーへの依存を防ぐ考え方は開発の外注先をうまく管理できない|ベンダーコントロールの勘所でも解説しています。
保守費用はどう適正化する?(見積もりチェックリスト)#
保守費用が妥当かを見極めるには、金額の総額ではなく中身を確認します。
見積もりで確認したい6つの観点#
次の観点でチェックすると、過不足が見えてきます。
- 見積もりの内訳(障害対応・改修・インフラ・監視)が分かれているか
- 対応範囲とSLA(何に・どのくらいの速さで対応するか)が明記されているか
- 改修(小さな機能追加)の扱いが、定額内か別料金かはっきりしているか
- インフラ・ライセンス費が保守費と分けて示されているか
- 属人化を防ぐ仕組み(ドキュメント・引き継ぎ)があるか
- 定期的な見直し(年1回など)の機会が契約に組み込まれているか
これらが曖昧なまま契約すると、後から「これは範囲外です」と追加費用が発生しがちです。逆に内訳と範囲が明確なら、保守費用は納得感を持ってコントロールできます。定型的な問い合わせ対応の負荷が大きい場合は、AIソリューションによるチャットボットや社内文書の検索基盤で運用の手数を減らす方法も選択肢になります。内製と外注のどちらで持つかはシステム開発は内製と外注どっちがいい?判断基準とメリット・デメリットも参考になります。
弊社(株式会社TryWith)の支援#
弊社では、システムの開発だけでなく、公開後の保守・運用まで一貫して支援しています。既存システムの保守費用が妥当かの見直し、対応範囲やSLAの設計、属人化・ブラックボックスの解消、改修を見据えた体制づくりまで、開発を担う立場からお手伝いします。要件定義から運用までをワンストップで担うシステム開発と、スポットCTO的な関与の両方を手がけているため、「今の保守が高い・遅い・引き継げない」といった悩みにも、現実的な選択肢を一緒に整理できます。
「保守費用が適正か見てほしい」「他社が作ったシステムの保守を引き継ぎたい」といったご相談に、現状整理からお応えします。
よくある質問(FAQ)#
Q. 保守・運用費用の相場はどれくらいですか?
A. 「開発費の何%」という一律の相場はありません。参照できる公開の調査値としては、JUAS「ソフトウェアメトリックス2018年版」が、自社開発システムについて初期開発費用に対する年間保守費用の比率を初年度7.6%、5年度8.5%、5年間の年平均8.0%と報告しています。実際の金額は規模・対応時間・改修頻度・インフラ構成で大きく変わるため、内訳で確認するのが確実です。
Q. 保守費用は何にかかるお金ですか?
A. 主に、障害対応・不具合修正、機能改修・追加開発、インフラ・ライセンス、監視・問い合わせ対応の4つです。見積もりでこの内訳が分かれているかを確認しましょう。
Q. 定額と従量、どちらの契約がよいですか?
A. 継続的に監視や小改修が必要なら月額固定(定額)、障害がまれで変更も少ないなら都度対応(従量)が向きます。改修が多く事業の根幹を担うなら常駐に近い体制も選択肢です。
Q. 保守費用を下げるにはどうすればいいですか?
A. まず内訳と対応範囲を見える化し、過剰なSLAやインフラ費を見直します。属人化を解消しドキュメントを整えると、将来の改修コストも下がります。安さだけで対応範囲を削るのは逆効果です。
Q. 他社が作ったシステムの保守も頼めますか?
A. 可能な場合が多いです。まず現状のドキュメントや構成を確認し、引き継ぎ可能かを見極めたうえで、保守の範囲と体制を設計します。属人化している場合は、その解消から始めます。
まとめ#
システムの保守・運用費用は、開発費とは別に毎年かかる継続費用です。「開発費の何%」という一律の相場はなく、参照できる公開の調査値はJUAS「ソフトウェアメトリックス2018年版」が示す初期開発費用比の年平均8.0%(初年度7.6%、5年度8.5%)程度にとどまります。重要なのは数字より「内訳・対応範囲・契約形態」を理解して適正な範囲を見極めることです。契約は都度・定額・常駐から重要度に合わせて選び、保守レベルは「止まると事業に響くか」で決めます。安さだけで選ばず、対応範囲・スピード・引き継ぎやすさを合わせて比較すれば、保守費用は納得感を持ってコントロールできます。
出典:ソフトウェアメトリックス2018年版|一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)(2018年5月公表。自社開発システムの初期開発費用に対する保守費用比率 初年度7.6%〈n=408〉・5年度8.5%〈n=172〉・年平均8.0%はP.35 図表7-71「保守費用分析稼働後の保守費用はどの程度かかるのか? 開発手法別比較」)/DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~|経済産業省 デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会(2018年9月7日公表。IT関連予算の80%が現行ビジネスの維持・運営に割り当てられているとの記述はP.12)/企業IT動向調査2025(2024年度調査)|一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)(2025年4月公表。ランザビジネス予算の配分比率76.2%〈24年度・n=941〉はP.15「ランザビジネス予算:バリューアップ予算のIT予算配分」)
「保守費用が適正か見てほしい」「保守を引き継ぎたい」という場合は、現状整理からお手伝いします。まずはお問い合わせはこちらからお気軽にご相談ください。
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